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上級者のための英語学習法-同時通訳者が解説-

2022年4月2日に開催された同時通訳者が解説!英語上級者のためのオンライン会議ハック(スピーカー:会議通訳者 木内 裕也氏)の講演を一部再構成したものです。

これをすればTOEICのリスニングセクションで満点が取れます、これをすればネイティブスピーカーのように喋る魔法の方法ですというのは、残念ながらありません。例えばTOEIC400から600にする苦労と、800から990の苦労、同じ約200点の差ですが後者の方が非常に苦労が大きいと思います。学習のための教材もあまりありません。

ではどうやって英語力を上げていけばいいでしょうか。今回はその方法についてご紹介します。

1. 一番退屈だけど一番効果がある

まずは基礎体力の増強です。一流のアスリートも、一流のシェフも、一流の人はやはり基礎の部分をきちんと作り上げます。そして、一流になったあとも基礎を大切にします。

英語の基礎は何かというとまずは単語力です。単語力と聞いて、ものすごくつまらない、ものすごく退屈だと思われるかもしれませんが、単語をたくさん丸暗記すれば確実に英語力は上がります。

私は高校生の時はサッカー一筋でしたが、2年生の2月頃、突然大学受験をしなければいけないことに気が付きました。そこで近くの本屋さん行き売っている英語の問題集を端から端まで全て買って、全部解きました。その中でも単語をたくさん覚えるということを意識しました。新聞広告の裏に単語を6,7個書いて壁に貼り、その中の3つを覚えたら、新しい3つを追加して、ということを繰り返して、たくさんの単語を覚えました。そうすると他の部分、例えばリスニングで聞き取れない、文法が複雑でわからないということがあっても、単語力で補うことができました。

スピーキングに自信がなくて、多少文法が崩れても単語力があれば絶対に通じます。よく、動詞+前置詞を使いこなしましょう、などと言われます。例えばsupplementとadd onどちらも「付け加える」という意味ですが、確かにadd onのほうがネイティブスピーカーの表現に近いかもしれません。しかしsupplementでも通じないことはありません。表現でとまどっても文法でとまどっても単語をたくさん知っていれば単語力がカバーしてくれます。

単語を覚えるときに派生語がどうだとか、類語がどうだとか、細かいところをやっていくと、単語集の途中で挫折してしまうので、最初は見出し語だけで大丈夫です。TOEIC950点を目指す単語集や難関単語が集まっているものから、ただの1万語レベルといった単語集でもなんでもいいので単語を勉強してください。

単語力が付けば表現力や、リスニング力、スピーキング力の足りない部分を補ってくれます。一番つまらないけれども一番効果がある、これ単語力です。

2. 質の高いリスニング力

そして次にくるのが、質の高いリスニングです。英語の基礎体力をつけるにはリスニングの力がとても大切です。リスニングを強化するときに注意が必要なのは、質の高いリスニングをするということです。質の高いリスニングをするためにただ音声を流し聞きしたり、内容をリピートするのではなく、シャドーイングを行ってください。

3. 5分間の正しいシャドーイング

シャドーイングは通訳者が行うトレーニングとして知られていますが、英語を聞いてそのまま英語をだす、という練習です。これは聞いてただ同じことを言うリピートであれば非常に簡単なんです。そうではなく、正しいシャドーイングというのは、聞いて内容をきちんと理解して、そして口から発話するんです。聞いて理解して話すので、突然音声が止まっても今なんて言っていたか答えられます。リピーティングはただ音を追ってるだけなので、できません。30分のリピーティングをするのであれば、5分のシャドーイングの方がはるかに良いです。継続することで、質の高いリスニング練習になると思います。

4. 目的を絞った学習

皆さんは英語力を上げたい理由があると思います。英語が上手になってよかっただけではつまらない。英語ができたから、これができるとなるのが一番楽しい、役に立つのだと思います。

英語が上手になって何がしたいのか、例えば交渉を成功させたいのか、プレゼンを上手にしたいのか、もしくは学会で発表したいのか、明確な目的のために英語のこの部分に特化して学習する、ということを考える必要があると思います。どうしても英語力全体を上げようと思いがちですが、目的を明確にするというのが結果英語力向上の近道になります。

5. トレーニング環境を過酷にする

皆さんが教材として使っている音声教材は恐らくスタジオ録音された綺麗な英語だと思います。しかし、そういった英語を会議で聞くことはほとんどありません。

例えばマラソン選手はフルマラソンを走るよりも、もっときついトレーニングをしています。そして実際のレースでは、トレーニングの6割、7割くらいの強度・負荷で余裕があります。これと同じようにトレーニングに本番以上の負荷をかけると良いでしょう。リスニングであれば、早送りで聞いてみる。ものすごくアクセントの強いものを聞いてみる。雑音が入った教材で聞いてみる。トレーニング環境を、ある意味、劣悪なものにすることによって、本番の会議が少し楽になると思います。

6. 一つ一つ丁寧に学習する

上級レベルになると知らないことというのは非常に少ないと思います。例えば英字新聞を読んでいて1つ2つ単語がわからなくても内容は理解できます。しかしそこであえて一つ一つをちゃんと調べる、これが上級者には重要です。もしかすると、今回はコンテキストでこの単語を飛ばせるけれど、明日はコンテキストで飛ばせないかもしれない。

90点で満足しない。満足するのは簡単ですがあえて非常につまらない退屈なステップを一つ一つ踏んでいくことが必要です。

7. ミスを恐れない、ミスをそのままにしない

また、ミスを犯すことを恐れず、かつミスをしたらそのままにしない。通訳者は、口から出せなかったら仕事になりません。口から何かを出すために雇われるわけです。ですので、どうしてもミスをすることがあります。ミスを恐れていては仕事はできません。ミスをすることは重々承知しながらも最善を尽くして通訳を行います。しかし、ミスをしてしまったら、きちんとケアします。例えば、なぜこの単語を思い出せなかったんだろう、何でここを誤解してしまったのだろう、単語を知らなかったのか、音声が悪かったのか、自分が集中していなかったのか、しっかりと自己分析をしてください。

8. 小学校5年生の参考書

そして最後にあるのが「小学校5年生の参考書」です。意外と簡単なところに答えがあったりします。私が通訳デビューしてすぐの頃、I’d like to apologize 〜という表現がありました。Apologize(謝る)の単語自体は非常に簡単ですが、私は通訳に詰まりました。国際会議で「謝る」は適切ではない、次に出たのが「謝罪」でした。他に出てこないので「謝罪」を使って訳をしたわけですが、どうも「謝罪」と「謝る」の間に何か表現がありそうだと思いながらもその仕事が終わりました。そして後になって「お詫び」という単語でよかったんだと思いあたりました。

皆さんが大学生、大学院生ぐらいの英語力だとしたら、もしかしたら「小学校5年生の参考書」を見ると何か発見があるかもしれません。上のレベルの教科書だけではなく、時には高校生の単語帳などで振り返ってみるのも良い学習の方法だと思います。


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