ビジネスに必要なのは英会話よりも英語ロジック
グローバルなビジネスの場で活躍しているテンナイン・コミュニケーションの同時通訳者が、英語のコミュニケーション力を伸ばすための英語ロジックの身に着け方を解説いたします。
英語ロジックの必要性
「ロジック」や「論理」は、なかなか日本語では馴染みのない概念かもしれません。
例えば、「あなたの言っていることは論理的ではありませんね」とはあまり日本語で口にする表現ではありません。「そのロジックはおかしい」と最後に言ったのがいつか覚えている人も少ないでしょう。
しかし英語では、You are not making sense. You are making a leap of logic. と言う発言を頻繁に耳にします。日本ではあまりに筋が通った話ばかりしていると無味乾燥な人と思われたり、「屁理屈ばかり言って」と場合によってはマイナスのイメージをもたれてしまうこともあります。しかし英語の文化では「ロジックを組み立てる」ことが非常に大切であることをまず覚えておいてください。
英語ロジックを学ぶ利点
英語のロジックを学ぶことは、いくつかの利点があります。
まず私たちが英語学習者として英語を話すと、どうしても日本語の話の流れをただ英語に翻訳して発言する傾向があります。つまり、口から出ている言語は英語なのですが、頭の中は日本語なのです。日常会話であればそれで十分なのですが、ビジネスの席や、1レベル上の英語を喋ろうとした場合には、これが大きな障壁となりえます。
また英語のコミュニケーションを取る上で、相手のロジックを理解しながら話を聞くことによって、少しくらい知らない単語や表現があっても、大体の内容はつかむことができるものです。
同時通訳者といっても、すべての内容を理解しているわけではありません。時には訛りの強い人がいたり、何かのトラブルで音声が聞こえにくかったりと言うトラブルはつきもの。そんな環境でも、何事もないかのように通訳をしつづけることができるのは、話者のロジックを追いながら通訳しているからです。
ロジックをつかむ訓練をすれば、皆さんも知らない単語や表現に惑わされること無く、きちんと相手の言いたいことを理解できるようになるでしょう。
日本語はハイコンテキスト、英語はLow Context
日本語にもロジックは存在します。これは日米の文化比較をするときによく使われる例ですが、「風が吹けば桶屋が儲かる」というものがあります。江戸時代の「世間学者気質」が初出で、東海道中膝栗毛にも出てきますが、以下のようなロジックがこの有名な表現はあると言われています。
「風が吹いて土ぼこりが立つ」→「土ぼこりが目に入って、視覚障害者が増える」→「視覚障害者は三味線を買う(江戸時代当時の話)」→「三味線に使う猫の皮が必要になって、猫が殺される」→「猫が減ると、ネズミが増える」→「ネズミは桶をかじる」→「桶の需要が増えて、桶屋が儲かる」
かなりこじつけの様な気もしますが、このロジックが成立するのは一般的に日本文化は「コンテキストが高い(ハイコンテキストと呼ばれます)」ためです。コンテキストが高いとは、その文化に属する人々が共通した理解や価値観を持っていることです。それほど親しくない人でも、「言わなくてもこれくらいは分かるだろう」と考えることがあります。例えば、誰かの家に訪問するとき、「何も言わなくたってちょっとしたお土産は持っていくのが社会の常識だ」と思うかも知れません。これはコンテキストが高いからこそ可能な考えです。
さて、英語の環境ではどうでしょうか?特にアメリカのように多民族国家で色々な文化や価値観が混ざっている場合、「言わなければ分からない」というのが社会の前提としてあります。日本のハイコンテキストな文化に対して、これはコンテキストが低い、つまりLow Contextといえます。この様な環境では「これくらい言わなくたってわかるでしょう」が通用しません。I didn’t do it because you never told me to.が通用するのです。
”I thought you knew it.” “Well, I would never know until you say it.”というやり取りを、私は何度も目にしたことがあります。昔の日本映画を観ていると奥さんが食事をしている旦那さんに対して、「あなた、今日の食事は美味しい?」と聞くシーンがあります。その答えとして、「まずかったら食べてないよ」と答えたりします。美味しいときには美味しいと言わないといけないのが、英語の文化。だからアメリカの映画を観ていると、付き合い始めてすぐのカップルだけではなく、熟年カップルでさえI love you.を繰り返しているのです。こんな文化比較の話をすると、「そんな生活は疲れそうだなあ」と思わず口にする日本人の人も結構多いものです。
英語ロジックの組み立て方
優れた日本語のエッセイは朝日新聞の天声人語だとも言われますが、その様な日本的な話の組み立て方をしている書き物を見ると、英語のロジックとの違いが一目で分かります。
日本語のロジックは直線的です。Aという要素があって、それがBにつながり、Cという事象が発生し、Dという結論に至る、というもの。その結果、AとDの間には何の直接的関係もない様にさえ思えるのです。風と桶屋の例を考えれば良く分かるでしょう。そして「つまりのところは何か」を知るには、最後まで読みすすめないと、Dの結論には到達しません。
英語はその逆です。最初にDが言及され、そのあとにA、B、Cなどの要素が説明されます。言い換えれば、冒頭の部分だけを読めば、英語の場合は結論や要旨がすぐに分かるのです。中学1年生で学ぶ基本英単語の一つにBecauseがありました。「なぜならば」という風に訳されますが、英語でBecauseが非常に頻繁に使われるのに対し、日本語の会話で「なぜならば」という言葉を使うことは稀です。この単純な事象だけを見ても、英語と日本語の間にはロジックの組み立て方の大きな違いがあることが分かります。
I love you because you shine my life no matter what.はロマンチックですが、これが日本語で「あなたを愛しています。なぜならばいかなる時も私の人生を明るくしてくれるから」と言ったのであれば幻滅してしまうでしょう。そして英語でYou shine my life no matter what. So I love you.と言ったら、Just tell me you love me. That’s all I need to hear.と言われるかもしません。
英語ロジックに慣れるには
英語のロジックに慣れるには努力と時間を要します。日本人の留学生が英語で論文を書くときに苦労するのは、ただ単に英語で論文を書かなければならないと言うことだけではなく、英語のロジックで文章を書くことに苦労するという点も挙げられます。
英語で何かを書いたり発言したりする前に、その目的と趣旨をはっきりとさせること。日本語だと、話をしているうちに自分が何を言いたいのか分かってくる、ということが許されるかもしれませんが、英語の場合は通用しません。What is your point? It is unclear what you want to say.などと言われても仕方ありません。端的に自分の言いたいことを述べ、その後にBecauseで説明を加えるといいでしょう。落第しそうな学生に、大学の教員がアドバイスをするときも、以下のように行われます。
You’re failing this class. I’m going to show you why you are not meeting the minimum requirements. And then I will tell you how you can obtain a passing grade by the end of the semester.
まず最初に落第している事実が伝えられます。そしてその後に、「落第している理由を述べ、最後にどうすれば合格点を取れるか説明しましょう」と伝えています。このように、まず大きな結末を述べてから、その後の流れを説明すると言うのは、英語では当たり前のことです。第1ステップとして、最初に結論を述べることを意識してみましょう。ミステリー小説ではないですから、最初に結末を伝えても困ることはありません。
英文メールにもロジックを
英語でのメールも、英語ロジックを実践するよい機会です。英語のEメールは日本語のメール(そして特に日本の伝統的な手紙の書き方)と比較して顕著に、まず趣旨を述べることが大切です。
例えば、会議の日程を設定し、その会議で話しあう内容を確認するためにメールを送るとします。そんな時には、The purpose of this e-mail is twofold. とメールを始めることもいいでしょう。もちろん、There are two purposes of this email.とも書けますが、There is/areで始める文章は一般的に洗練されていない文章とみなされますから、前者のような文章のほうが望ましいですね。
このように「本メールには二つの目的があります」と初め、The first is… The second is…と続けます。そして新しい段落を設け、そこで一つ目の内容を説明します。これだけで、英語のロジックに近いメールを書くことができます。
情報を繰り返す
またLow Contextの社会では大切な情報を繰り返すことも必要です。通訳トレーニングにおいては、「もしも大切と思われる情報を聞き落としても、焦ってはいけない。本当に大切なら、2回目、3回目のチャンスがあるから」と言われます。これはただ単純に平静さを保って通訳をするためのヒントではなく、事実として大切な内容のメッセージは繰り返されることが多いのです。ですから、皆さんがコミュニケーションをとるときにも、「くどいかな?」と思っても繰り返し述べて問題ありません。
まとめ
(1)まずは日本語の思考と英語の思考には違いがあることを理解しましょう。より効果的な英語によるコミュニケーションのためには、ただ英語を流暢に話すだけではなく、英語のロジックを理解することが大切です。ただ言いたいことを日本語から英語に翻訳するだけではなく、相手に伝えたい内容を英語のロジックで説明するとどうなるのか、を考えてみましょう。
(2)英語を話すときには、「これくらいは言わなくても分かってくれるでしょう」という気持ちは排除します。「言わなくては分かってもらえない」という心持ちで、自分の伝えたいことをダイレクトに表現するのが大切です。Don’t worry, I know.と言われるほうが、Why didn’t you tell me?と言われるよりもいいのですから。
(3)最初に結論を述べましょう。ミステリー小説で最初に犯人を明かしてしまうとつまらないかもしれませんが、英語でコミュニケーションをとるときにはまず結論を述べ、その後に細かい説明を加えましょう。結論を述べるだけではなく、どのようにしてその結論に導くか、「2つの点から話をします」などと加えることもいいですね。
(4)大切な点は繰り返しましょう。「英語では大切な点を2度言わないと分かってもらえない。イタリア語の場合は5回言っても分かってもらえない」という冗談もありますが、それくらいの強調が必要なこともあります。
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